H2O個展ライブペイントに関しての備忘録

Live painting / on the wooden board
2023.10.13-10.15 at H2O, Kyoto
タモの木の木目を活かして描いたライブペイントに関して
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H2Oでの個展3日間を通してのライブペイントは、個展In the woodsのテーマにあわせ
これまで行わなかった木目を利用しつつ板に描くライブペイントを行ってみました。

描いた板は最近初めて描いたタモの木の板(独特な木目をもつ玉杢というもの)のシートになっているもの。
今回のような数日かけてのライブペイントは、私の場合一人でこつこつ作品を仕上げるというよりお客さまとの対話から描くモチーフが増えていったり、出会いで変化してゆく表現となることが多いです。
それを想定すると、描き込んでいく情報量に対して木目がシンプルな場合は紙に描くのとほとんど変わらない使い方になってしまうと思い、複雑で全体に細かな動きのある木目を持つこのタモの玉杢の板を選びました。

仕上がりは必然的に全体に木目も私の絵もちりばめられ情報量が多い作品となったのですが、通常の作品制作とは違うものなので、そこは割り切って仕上げてゆくことを優先した結果。
この木目を選択したことにより、たくさんのモチーフを描き込んでいってもあらゆるモチーフが木目とのコラボをしながら描いていくこともできました。

この絵を描くにあたり私が前もって決めていたことは、ひとつ。
ライブペイントを描いた場所の周囲の作品たちが皆歩いていたり飛んでいたりと前に(絵の中では左方向へと)進んでいく作品たちで固められていたので、この絵もそうして彼らと進んでゆく絵にしようということだけ。
あとは人との出会いで描かれるモチーフは変化するので、私はそれらをまとめ作品として成り立つように描いていきました。
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この木目とのコラボ手法でのライブペイントをこれまで行ってこなかったのには明確な理由が合って、それはこの手法においてはライブペイントでの表現より通常の丁寧に描く制作での表現がベストだとイメージしただけでもはっきりと答えが出ていたからです。
普段ライブペイントで行っている他の手法は全て、ライブペイントでの表現で(描く過程込みで、完成した作品も)普段の作品制作で生み出したものを時に越えてゆけるほどの作品を生み出せると思えるから、ライブペイントという表現手段での制作も大切に思い、精力的に行っています。
かねてからお伝えしていますが、個展等で展示する通常の作品制作と、ライブペイントでの表現は全くの別物。
私にとってライブペイントは通常の作品の制作過程をご覧いただくものではなく、ライブペイントだから表現できるものを表現する全く別物の特別な表現手段です。
木目を利用しての板での表現が通常の丁寧に描いていく作品制作によるものが作品としてベストなのであれば、ライブペイントで描く意味が私にとってはないと考えていました。

今回、実際にこうして3日間を通してその板での表現と向き合ってみたわけですが、
やはり無意識に普段の一人描く作品制作のように、緻密に描く方向へ完成をイメージして筆を動かし絵の具を重ねていて、それがやはり答えであると思います。
木が美しい木目を作り出し、画面に丁寧な美しい線を描いてくれていて、それを大切に活かしつつコラボしようとするから、どうしてもライブペイントのような勢いのあるラインや絵の具の乗り方では違和感が残ってしまう。
その木目と合うように作品を描こうとすると、美しい木目と馴染むようにしっかりと考え丁寧に作品が仕上がるように描きたいと思う。
これは、普段のライブペイントのように一人自由に思うままに行うライブペイントとは違い、
木とのコラボで描く故に相手(木の創り出した木目)を尊重しつつ描くことを大切にしている以上、
私の気持ちも考えもとても自然なことのように思います。

今回、実際試みてみたことで具体的に何故ライブペイントには向かないか、その理由を実体験で改めて感じ考えることができたので、この点は実際に一度ライブペイントとして向き合ってみて良かったと思っています。

そして、上記のような理由もあり、描き初めから悶々とした心境になるという私のライブペイントとしてはかつてないずくしのライブペイントとなったのですが、連日ご来場いただいた方などにはこうした心の内も全てお話しつつ向き合ったライブペイントだったので、その過程をすべてご覧いただき、作家が苦悩し葛藤し、時に戦い、試行錯誤して時にワクワクし、そんなひとつひとつを乗り越えて完成に向け筆をひたすら走らせていく、普段のライブペイントではご覧いただけない普段の作品の制作過程をご覧いただいた貴重な機会でもあったかもしれないと思っています。
私が葛藤しつつも、特に後半は感覚が少し変化しのびのび筆を走らせてゆくことができたのは、ずっと見守ってくださって、描かれていく過程を楽しんでくださった皆さんのおかげでもあると思っています。

皆さんに見守っていただきつつの制作、おかげさまで試行錯誤込みで楽しみましたし、私にとって良い思い出となりました。
私がライブペイントにおいて(それぞれの制作において)大切にしたいことを考えると、今のところライブペイントでは木目に描く制作はよっぽどの理由がない限り今後も行うことはなかなかないように思うので、その貴重な機会をこの個展でご覧いただけて本当に嬉しかったです。

いつの日か、この完成した絵もご覧いただけますように。
本当にありがとうございました。